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日本人初の19メートル目指す 寡黙な「陸上系YouTuber」岩佐 隆時(24)
陸上系ユーチューバー
「きた~く」-バリトンボイスを響かせ自撮りをしながら帰宅するのは、今年6月にあった日本陸上競技選手権の男子砲丸投げで5位に入った「陸上系YouTuber(ユーチューバー)」の岩佐隆時(24)。チャンネル名は「岩佐隆時 砲丸選手の日常」。登録者数は9,470人(8月18日現在)。日々のトレーニングや、パワー系アスリートの気になる食事などがテンポ良くまとめられている。再生回数が10万回を超える動画もあり、「陸上系では比較的多い方では」と分析している。
直接話してみると、本人はいたって寡黙だ。言葉は決して多くない。「なぜユーチューブを?」と聞くと、「アスリートは応援してもらってこそ価値がある。そのために」と返ってきた。だが、無理をして動画をつくっているわけではないようだ。そこには「陸上、その中でも投てき種目をもっと知ってもらいたい」との純粋な思いがあり、国内における陸上競技、選手の地位向上につながればとの熱い思いを感じさせる。YouTubeを始めて間もなく3年。いまは「トレーニングのいい記録になっている」。
抜群の練習環境
福井県福井市生まれ。4人兄弟の3番目で、教員の父親が私財を投じてつくった陸上クラブ「東郷陸上クラブ」で走り始めた。クラブには70メートルの全天候型トラック、坂道コース、走り幅跳び用の砂場、屋内練習場などを備えており、とても私設のものとは思えない。陸上を始めるのも自然な家庭環境と思いきや、「兄弟で陸上をしているのは自分だけ」で、「ひとりぐらいやってあげないと、父親がかわいそうでしょう」と笑う。
中学入学までは短距離と走り幅跳びをしていた。ただ、「どちらにも県内に飛び抜けた選手がいた」。投てきなら勝機があると感じ、中学1年から砲丸投げと円盤投げを始めた。自宅内にウエートトレーニングなどができるホームジムがある環境もあって、中学3年の中総体では砲丸投げで全国4位にまで成長した。
各世代で日本一
高校は地元の北陸高校に進学。最終学年で迎えた「2016中国総体」では17メートル27を投げて優勝(高校生男子の砲丸は6㌔)。高校生では珍しい回転投法での勝利だった。世界では主流となっている回転投法だが、実は、国内では指導者があまりいない。そのため、昔ながらの「グライド投法」を採用する選手も多い。だが研究熱心な性格ゆえ、勝てる投げ方として回転投法を高校1年から採用し、海外選手の映像を見るなどしてトレーニングを工夫し、着実に距離を伸ばしてきた。
高校卒業後は東海大学に進学し、大学3年時に日本学生陸上競技対校選手権大会(インカレ)で2位、最終学年ではついに頂点に立った。技術面の向上に加え、筋力などのフィジカル面が強化されたことも大きかった。高校、大学と各世代で頂点に立ってきただけに、次は当然ながら「日本一」が目標となる。
2024年の国スポへ
学生スポーツに別れを告げ、2022年4月から佐賀県スポーツ協会所属として拠点を佐賀に移した。今年6月の日本選手権は5位。「技術面での未熟さが出た」と満足できる結果ではないが、課題も見えているだけに今後につながる結果ではあった。
これまで16メートルや17メートルといった一つの区切りを超えるとき、「ちょこっと超えるのではなく50㌢ぐらい大きく超えてきた」。練習では18メートル台も出ている。自己ベスト更新は遠くないはずだ。佐賀国スポまであと2年半。目標とする日本人初の19メートルで優勝するという絵は、すでに頭の中で描かれている。
岩佐 隆時 選手
競技:陸上(投てき)
いわさ りゅうじ
1998年6月30日生まれ。福井県出身。北陸高-東海大。佐賀県スポーツ協会所属。陸上教室を主宰していた父の指導で小学4年のころから陸上を始める。当初は短距離、走り幅跳びに取り組んだが、中学1年から投てきに転向。2016年全国高校総体(インターハイ)優勝。2019年日本学生陸上競技対校選手権大会(日本インカレ)2位、2020年日本インカレで優勝する。自己ベスト17メートル69。