陸上から水上へ 新たな舞台で夢追う
陸上競技場のトラックから水上に舞台を移し、夢に向かって挑戦を続けるパラアスリートがいる。全国車いす駅伝や全国障害者スポーツ大会などで長年活躍してきた百武強士さん(40)=伊万里市松浦町=は、3年前からパラローイングにも挑戦している。2023年には国内の強化指定選手に選出され、2028年ロサンゼルスパラリンピック出場を目指している。
あと一歩で逃した東京大会
生まれつき両足がなく、中学までは義足で過ごした。小学4年で初出場した有田の車いすマラソン大会でスポーツの楽しさを知り、陸上競技の道に進んだ。高校時代から全国車いす駅伝の佐賀県チームに加わるなど本格的に競技に取り組み、卒業後も100メートル・400メートルを専門に、ジャパンパラや国際大会などで入賞を重ねてきた。オフシーズンに持久力強化の一環で始めた長距離でも記録を伸ばし、2018年の大分国際車いすマラソンで優勝。しかし、主戦場の短距離では障害区分別に設けられたパラリンピックの参加標準記録にわずかに届かず、2021年の東京大会出場はかなわなかった。
このまま陸上競技を続けるか、それとも別の競技に挑戦するか。30代半ばを迎え、アスリートとしてのこれからを模索する中、転機になったのは日本パラスポーツ協会などが全国で進める「J-STARプロジェクト」だった。陸上での活躍を知る現佐賀県ボート協会理事長の宮谷康裕さんから「ローイングをやってみないか」と声をかけられ、強化指定選手の選考合宿に参加した。陸上と違って左右に揺れる不安定なボートに恐怖心もあったが、風を切って水面を滑るローイングの魅力に触れ、新たな挑戦を決めた。
パラローイングでLA大会目指す
車いすは車輪を前に押し出して進むが、ローイングではオールを引く力でボートを進める。「最初は悲しくなるくらい進まなかった」と、これまでやってこなかった動作に戸惑ったが、「腕の力だけで走れないのは車いすもボートも同じ。肩甲骨や背中全体を意識して、体全体を使わないと速く進まない」と気づいたという。練習拠点の松浦川ボートハウス(唐津市)では、SAGA2024に出場した国スポ選手たちにもアドバイスを受けながら、少しずつ漕手として力をつけている。
第一線で戦うパラアスリートとしてパラリンピックを目標に掲げながら、「地元のスポーツ関係者らと連携してパラスポーツの輪を広げたい」とも話す百武さん。「スポーツをやってみたいけれど、どうしたらいいかわからずにもやもやしている障がい者がまだいると思う」と話し、自身の経験から「せっかくの一度きりの人生で、何か一つ誇れるようなものがあったほうがきっと楽しい。スポーツでも、そうでなくてもいい。何か一つ思い切ってチャレンジしてほしい」と願っている。