TANAKA Msaya
2028年のロス五輪を目指して
カヌーとの出会い
進行方向に背を向けてこぐボートとは異なり、前を向いて進むカヌー。流れのないコースで一斉にスタートして着順を競うスプリントは、静止状態から一気の加速を見せるスタートダッシュが見どころのひとつだ。座った姿勢で、両側にブレード(水かき)が付いたパドルをこぐカヤックと、片膝を立てて、片側にブレードが付いたパドルを使うカナディアンのふたつのスタイルがある。
カヌーとの出会いは偶然で、知人のすすめだった。カヌーの長さは5メートル以上あるが、幅はわずか40センチ程度。初心者は乗ることさえ難しく、たいていは転覆するという。だが、中学まで体操を続けていたこともあり、初めてでもすんなりと乗ることができた。いま振り返れば「体操でバランス感覚や体幹を鍛えていたことがカヌーに活かされたのでは」と感じている。そしてカヌー部がある三潴高校へと進んだ。
高校で全国優勝も経験
だが、いざ水面に出てみると、「先輩たちと比べて持久力が圧倒的に不足している」ことに気づいた。心肺機能を強化するため、練習ではひたすらランニングに取り組み、毎日14~15キロ程度の通学路を自転車で通った。
成果はすぐに結果に表れた。2017年8月の高校2年時には、文部科学大臣杯日本カヌースプリントジュニア選手権大会のカヤックフォア(4人乗り)200メートルで優勝した。高校3年で出場した福井国体では、カヤックペア(2人乗り)500メートルで4位、200メートルでも5位入賞した。
「もっと強くなりたい」と高卒後の進路に選んだ大正大は、厳しい練習で知られている。毎朝4時過ぎに起きて、5時15分から7時半までスタミナ強化を重視した水上練習。大急ぎで大学の授業に出ると、夕方もスピードを重視した練習をこなした。必死に大学のスピードと練習に食らいついた。初めての全日本学生選手権(インカレ)では、1年生ながらカヤックシングル1000メートルで3位表彰台に上がった。「まだまだ上に行ける」と思った矢先に、コロナ禍が襲ってきた。大学1年の冬だった。
新天地、佐賀へ
大学での練習が中止され、1人福岡県の実家に戻ってきた。たった一人の練習で調子を崩した。大学2年の全日本インカレは準決勝で敗退した。だが徐々に大学での活動も再開されると、本来の力を発揮し始めた。大学3年時にはU-23の日本代表に選ばれ、ポルトガルであった国際大会に出場した。思うような結果を出すことはできなかったが、世界トップのレベルを感じることができた。「トップ選手は練習の段階から試合と同じ緊張感と負荷をかけている」ことに気づいた。
大学4年の時には世界大学カヌースプリント選手権大会(ポーランド)に出場し、カヤックペア500メートルで8位入賞を果たした。心のどこかに「カヌーはやりきった」との思いがあり、卒業後は就職するつもりだった。
就職活動を続けていた時、佐賀県のカヌー関係者から「もったいない。競技を続けないか」と熱心な誘いを受けた。2024年の佐賀国スポ、そしてその先のロス五輪などについて話しをするうちに、「日本のカヌー界に名を残したい」と新しい目標も芽生えた。
まずは佐賀国スポで優勝を目指し、「佐賀への恩返しをしたい」。その先に、2028年のロス五輪を見据えている。「五輪の決勝に残り、メダルを取りたい」。パドルに熱い気持ちを載せて、カヌーは未踏の世界に進んでいく。
田中 政弥 選手
競技:カヌー
たなか まさや
2001年3月4日生まれ。福岡県柳川市出身、三潴高-大正大。高校進学後からカヌーを始める。高校2年時にカヤックフォア(4人乗り)で全国優勝するなど活躍。2019年、大学1年で全日本学生選手権カヤックシングルの1000メートルで3位入賞。大学3年時にU-23日本代表に選出された。2023年4月からTeam SAGA SPORT PYRAMID所属。