TAKEMOTO Sae

届け、パリへの一投

世界選手権11位

 体をムチのようにしならせ、振りぬいた手から投げ出されたやりは”弾丸ライナー”のような軌道で飛んでいく。天性ともいえる肩の強さと柔らかさを生かした投てきは、見る者を魅了する。2022年の日本選手権で3位に入り、世界選手権への道が開けた。
 元来の物おじしない性格で、緊張感も「当然あるもの」と受け入れ、自分をコントロールしてきた。だが、世界の舞台では違った。緊張もいつも通りと思っていたが、試合が終わっても緊張が解けない。今振り返れば、そのような状態でベストの投てきができるはずもない。決勝に残り11位入賞という結果を残したが、「やっぱり投げ切れていなかったかな」と振り返った。帰国後もあまりの緊張からか、少し休養を取らなければならないくらい疲れていた。

少年野球からやり投げへ

 兄の影響で野球を始めると、思いがけない才能を披露した。肩が抜群に強いのだ。少年野球では盗塁を許さない強肩キャッチャーとして名をはせた。そして周りの勧めもあり、高校から本格的にやり投げをはじめた。
 だが本心を言えば、競技を続けようかどうか、高校でも大学でも迷うときはあった。だが才能豊かなため、ある程度練習を積めば「全国2位」という結果が出た。高校2年時の全国高校総体(インターハイ)と、大学3年時の日本学生選手権(インカレ)だ。「あと一つ」、そう考えると持ち前の負けず嫌いの性格が奏功し、練習に打ち込んだ。結果、それぞれ翌年のインターハイ、インカレで優勝するという栄誉を手にしてきた。特に優勝を決めたインカレでは62m39という日本歴代4位(当時)の記録をたたき出し、国内トップ選手の仲間入りを果たしました。

パリ出場と国スポ優勝を目指して

 大学卒業後は、Team SAGA SPORT PYRAMID所属として競技を継続。練習は主に東京都内のナショナルトレーニングセンターを拠点に、種目は違っても同じく世界を目指すアスリート仲間と汗を流している。
 2024年はパリ五輪の出場をかけた重要な年になる。世界選手権後に少し調子を崩したが、オフの間に調整し、状態は徐々に上向いてきている。パリへの道は決して平たんでないことはわかっているが、「可能性は十分あると思っている」。春先から国内外の試合で結果を残し、日本選手権で3位以内に入れば、パリへの道筋が見えてくる。「応援してくれる人たちのためにも、パリに行きたいですね」と言葉に力を込めた。
 パリ五輪がある夏が過ぎ、秋になれば佐賀国スポがある。国体では高校3年時に愛媛国体で優勝したが、成年の部では優勝を経験していない。「大学を出た後、佐賀には応援してくれた恩義を感じている。佐賀のためにも優勝を」と明るく笑った。

武本 紗栄 選手

競技:陸上(投てき)

たけもと さえ

1999年生まれ。兄の影響で小学生時に野球を始め、強肩を自覚する。陸上競技の強豪校・尼崎高で本格的にやり投げを始める。インターハイ、インカレと世代別で日本一となり、2022年の日本選手権で3位に。2023年の世界選手権(米・オレゴン)に出場、決勝へ進み11位入賞。尼崎高(兵庫)-大阪体育大。兵庫県出身。Team SAGA SPORT PYRAMID所属。