KOSHIBA Iori

五輪王者への情熱

3歳で道場入り

 高校レスリング界で注目を浴びている佐賀県内の強豪・鳥栖工業高。快進撃の一翼を担ったのが71キロ級の小柴伊織選手だ。
 父親でもある小柴健二監督は元日本代表。兄と妹も同じ競技に打ち込むレスリング一家で育った。「3歳で道場に通い始めた頃から、とにかくレスリングが好き。技を一つ一つ覚え、相手に勝つのが楽しくて仕方ない」と、ひたむきに競技へ打ち込む。中学生になって全国大会に出場し始めると、みるみる頭角を現し、上位入賞の常連に。高校でも1年生から全国の舞台で活躍してきた。
 小柴選手の強さの秘密は、利き手の右だけでなく、左からも技を仕掛けられる器用さ。そして、レスリングの多彩な技へのあくなき探求心。時間があればスマホで海外選手の動画を見て、真似して覚えるという。「時間をかけてひたすら練習し、一つ一つの技を確実に修得していく。ほかの選手には見られない粘り強さがある」と、小柴監督も舌を巻くほどレスリングへの情熱を燃やす。

敗戦に学び、技に磨きを

 とはいえ、1対1の戦いの世界は厳しく、2019年のインターハイの個人戦では相手に徹底的に研究され、準決勝で逆転負けを喫した。続く茨城国体では、過去に2度勝利していた相手にまさかのフォール負けで2位。あと一歩のところで日本一に届かず、悔し涙を流した。
 それでも下を向くことはない。練習に打ち込めるのは「強い相手でも怖くない。自分の技が通用するか、試せるのが楽しみだから」という、まっすぐな向上心があるから。敗戦にも学び、技に磨きをかける日々に終わりはない。
 新型コロナウイルス感染拡大の影響で試合の機会が減った2020年にも、「今の自分より常に強くなりたい」というモチベーションは下がらなかった。唯一開催された全国選抜では並み居る強豪を打ち破り頂点に立った。ただ、全日本選手権につながる試合だったために気合が入りすぎた場面もあり、反省点は多かったという。さらに、全日本選手権がコロナ禍で縮小開催となったため出場できず、悔しさが残る大会となった。
 強くなりたいという思いの先にあるのは、オリンピックチャンピオンただ一つ。「毎日練習しないと怖い」と、オフの日がないほどに鍛錬を重ねる日々が世界一の道に続く。そのためにも「フィジカル、テクニック、すべてをレベルアップしていかないと」。

体の大きさに関係なく

 4月からは強豪の日本体育大学に進学する。「日本トップレベルの強い選手と対戦でき、技もたくさん学べる」と、大学での練習の日々が楽しみでたまらない。階級は74キロ級に標的を定める。身長は約170センチと大柄ではないが、階級を落とすことなくさらなるレベルアップを自分に課し、激戦区に乗り込む。
 レスリングの魅力を「自分の体一つが武器。大きさに関係なく努力した人間が1番を目指せる」と語る。現在の目標は、2024年のパリ五輪と佐賀国スポでの金メダル。SSPライジングアスリートとして「佐賀の人たちに応援してもらったら力が出る。トップアスリートとして認められるように頑張りたい」と、夢の大舞台への挑戦が続く。

小柴 伊織 選手

競技:レスリング

こしば いおり

2003年生まれ。全日本選手権で優勝し、国際大会でも活躍した父・健二さん(鳥栖工高レスリング部監督)の影響で3歳から道場に通い、小学3年頃から本格的に競技を始める。2019年にJOCジュニアオリンピックカップ(カデット)優勝、インターハイ3位、国体2位。2020年は、10月には新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期して開催された全国高校選抜大会で優勝した。