NARITOMI Kai

馬への愛情胸に、再スタート

 手綱を操り、颯爽と障害物を飛び越える“人馬一体”の華麗さが、見る者を引きつける。国民スポーツ大会の競技種目の中で唯一、動物と戦い正確性や美しさを競う馬術で、成富海(佐賀県馬術連盟)は頂点に挑み続ける。

 動物病院を営む家に生まれ、幼い頃から動物に囲まれた環境で育った。小学4年の時に、東脊振ホースランドで乗馬を始めると、人と馬が支え合い走る姿に魅了された。

 国スポ(国体)の馬術は、さまざまな運動を演じ正確さや優美さを競う馬場馬術と設けられた障害物を飛び越し、スピードや耐久力、飛び越し能力を競う障害飛越競技に大別される。成富は、障害飛越競技の中で加点方式で争うトップスコアと、六つの高さが異なる障害を飛び越えていく六段飛越に出場する。

「馬一番」の精神

 中学生の時に初めて臨んだ2017年愛媛国体では、少年トップスコア4位入賞を果たす。そこから国体を何度も経験。高校卒業後、専門学校では動物の飼育を学んだ。その後、静岡県にある乗馬施設に勤務し、日々、馬と生活し、技術を磨いた。

 いつも心に留めているのは「馬一番」の精神だ。素早く障害を飛ぶ馬もいれば、遅いけれど高く飛ぶ馬もいる。馬の特徴を日頃の練習からよく理解し、最も息が合う乗り方を模索する。「とにかくけががないように。致命傷を負う大惨事に至る場合もあり、何より競技ができなくなる」と馬の健康状態や体調管理には敏感に目を配る。

 人馬一体を体現するために、信頼関係は欠かせない。これまで重圧がかかる場面で何度も馬に助けられたことがある。障害を飛び越えるタイミングを合わせられなかった時に、馬の方から動きを合わせ、障害をクリアしたことは珍しくない。

 「日頃から感謝を伝えかわいがってあげる。運動した後に、おやつをあげてコミュニケーションを取る。繰り返している内に、馬が応えてくれるようになるんです」と柔和な表情で語る。

相棒との別れと国スポ

 佐賀国スポを直前に控えた6月。成富は打ちひしがれていた。前年の鹿児島国体で共に5位に入り、「次こそは」と優勝を誓い合ったカル・ジャパンを亡くしたからだ。「3年間、一緒に頑張ってきた相棒。生き物だからいつかは死んでしまうと頭では分かっていたが、家族を失ったような気持ちだった」

 国スポの開幕までは残りわずか4カ月。悲しみを押し殺し、前を向くしかなかった。幸運にも同じ県馬連に所属する川下類から馬を借りることができ、急ピッチで調整を進めた。

 迎えた大会は、成年男子六段障害飛越で12位、同トップスコアで15位と入賞に手は届かなかった。「慣れない環境で馬にとってストレスは多かったと思う。いろいろな人に支えてもらい出場にこぎつけたので、恩返ししたかった」と苦い記憶が残る大会となった。

 佐賀国スポ以来、相棒の馬はいない。10年近く競技を続けてきて「これまでの競技人生を振り返り、今後の指針を見つける期間」と、現在はいったん競技からは離れている。

 だが、馬術をやめるつもりは毛頭ない。「馬術をするために仕事をしているくらい馬が好き。新しい馬が見つかればまた国スポの優勝を目指したい」。誰にも負けない馬への愛情を胸に、栄冠へ向かい再スタートを切る。

アスリート情報

成富 海選手
(なりとみ かい)
競技: 馬術
2003年3月29日生まれ。神埼市出身。小学4年で乗馬クラブに入り、中学生で臨んだ愛媛国体少年トップスコアで4位入賞。栃木、鹿児島などの国体でも入賞するなど県勢の馬術競技を第一線でけん引する。現在は相棒となる新たな馬を探しながら、滋賀国スポでの優勝を目指す。
成富 海
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