MORIYAMA Daiki

日本新 次は世界へ

課題の100メートルで自己新

 世界への足がかりをつかみたい-。知的障害者水泳の25メートルバタフライ(短水路)で日本記録を持つ森山大樹選手(伊万里市)にとって、3月6、7日に開かれた日本パラ選手権は大きなチャレンジの舞台となった。
バタフライ、自由形ともに50メートルが得意だが、トップレベルの主戦場は100メートル。世界を見据えて100メートルにエントリーし、自由形で自己ベストをマークした。「100メートルの強化」を掲げ、コロナ禍の中で悩みながらフォーム改善と体力アップを進めてきた成果を、シーズン最後の主要大会で見せた。
水泳を始めたのは3歳のころ。保育園でのプールが楽しく、家から一番近いスイミングクラブに通い始めた。「記録が伸びるとコーチから褒めてもらえ、ますますやる気になった」。得意なことを周りの人たちに見てもらえ、しかも記録として残ることが楽しかった。

短距離に絶対の自信

伊万里特別支援学校高等部時代に頭角を現す。得意種目の50メートルバタフライでタイムを伸ばし、3年生の2019年11月には日本知的障害者選手権(短水路)の25メートルバタフライで12秒44の日本新記録をマーク。「大会前から調子が良かったので、『行ける』と感じていた」。50メートルでもベストタイムをたたき出し、短距離の泳ぎにさらに自信を深めた。同じ年には「SSPライジングアスリート」にも認定され、「自分もここまで来ることができた」。達成感を覚え、パラリンピック出場という夢が膨らんだ。
昨年4月に地元で就職し、社会人スイマーとして一歩を踏み出した矢先、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた。職場の理解があり、在学中と同程度の練習時間は確保できたが、大会が軒並み中止に。目標がなくなって集中力を維持することが難しくなり、調子も落とした。
 本来の泳ぎを取り戻すきっかけになったのが、コーチからの「頑張れ」という励ましだった。高等部時代は自分のためだけに泳いでいた。だが社会人となった今は、「周りのサポートがあるからこそ泳げる」と感謝の思いを抱く。家族や職場とともに、自分を支えてくれるコーチの言葉が胸に響いた。練習にも、次第に熱が入るようになった。

努力と成長に手応え

調子が少しずつ上向く中で久しぶりに参加した11月の秋季記録会では、成果と課題の両方が見えた。体調は不十分だったが、50メートルバタフライで27秒99とまずますのタイム。テンポ良く泳げたものの、キックの弱さが影響して終盤のもうひと伸びがなかった
所属する伊万里スイミングクラブの金子健二郎コーチは「ストリームライン(流線型姿勢)の良さが持ち味」と話す。スタートで優位に立ち、短距離ならば勢いで押し切れるが、100メートルとなるとそうはいかない。長い距離でもキック力を維持し、フォームを崩さずに泳ぎ切ること。理想の「100メートルスイマー」に近づけば、目標とするパリパラリンピックが見えてくる。
「世界との距離はまだ遠い」と今の実力を冷静に見つめながらも、「全力を出し切ればいいタイムが出せる」と言い切れるのは、これまでの努力と成長に手応えを感じているからこそ。「毎日の練習で、一つ一つの泳ぎを大切にしたい」。4年後の大舞台に向け、一歩ずつ前進している。

森山 大樹 選手

競技:水泳・パラ(知的)

もりやま だいき

2002年、伊万里市出身。短水路の25メートルバタフライで12秒44の日本記録を持つ。
伊万里特別支援学校高等部在学中から全国大会で活躍。昨年3月に卒業し、社会人スイマーとして世界を目指している。3月の日本パラ選手権に出場し、100メートル自由形で1分0秒94をマークし18位、同バタフライでは1分5秒67で泳ぎ12位だった。SSPライジングアスリートのほか、日本知的障害者水泳連盟の2020年度強化選手にも認定されている。