SATOU Hikaru

努力の先に見える舞台

東京五輪への挑戦

 カヌースプリント、男子カナディアンシングル1000メートルの東京五輪代表選手を決める選考レース。2021年5月に石川県の木場潟カヌー競技場であった。開催国枠が確保されているため、優勝すれば五輪出場が決定する。もともと、佐藤光選手はペアを得意としてきたが、東京を目指して19年からシングルに専念してきた。9人が出場する決勝で、佐藤選手は5位。夢舞台には届かなかった。
 五輪代表を選考するという独特な雰囲気の中、佐藤選手はいつもとは明らかに違う何かを感じていた。プレッシャーもあった。通常、最初の200メートルはできるだけ早く予定していたスピードに上げ、それから800メートルまではその速度を維持。佐藤選手はこのスピードを一定に保つ技術に優れており、ラストスパートに備えた体力の温存につながる。そして最後の200メートルでさらにペースを上げてゴールする。ただ、決勝の舞台でこの必勝パターンを見せることができなかった。独特な「何か」が最初の500メートルをオーバーペースにさせ、後半に失速。勝利を逃した。反省材料が残るレースだったが、課題も見えてきた。「効率よく漕ぐ技術をもっと高めなければならない」。

遅咲きだった高校時代

 神埼高に入学後、部活選びに悩んだ。その時、全国大会で活躍するカヌー部の先輩たちの姿が輝いて見えた。全国で戦える可能性に大きな魅力を感じて入部。ただ、すぐに結果は出なかったが、誰よりも漕ぎ、だれよりも走ったという自負はあった。「カヌーは練習をすれば、それだけ結果出る競技。そこが面白さの原点」。そして手ごたえを感じ始めたのは高校2年の秋ごろ。大会で結果が出るようになった。集大成となった高校3年のインターハイ。シングル500メートルで持ち前の持久力と粘り強さでトップを追走し、3位に輝いた。
 大正大入学後も着実に実力をつけ、2017年にはついに日本代表に選出された。世界選手権(チェコ)ではペアで12位、ワールドカップにも出場した。18年のアジア大会(インドネシア)でもペアで7位に入るなど、海外でも着実に実績を重ねてきた。卒業後は自衛隊体育学校に所属。午前と午後に合わせて20キロを漕ぎ、ウェイトトレーニングや走り込みでさらなる強化を進めている。

24年の佐賀国スポ、そしてパリへ

 目下の目標は2022年のアジア大会。出場するためには、同年3月の海外派遣選手選考会で結果を残す必要がある。冬場のオフシーズンに下半身を重点的にトレーニングし、船との一体感をどこまで高められるか、挑戦を続けている。パドルで得た力をすべて船に伝え、どれだけ前に進むことができるか。以前から取り組んでいる「効率よく漕ぐ」ことの一つだ。カヌーは風や水面の状況など、自然に左右され一概にタイムでは判断できない。ただ、「コンスタントに1000メートルを4分以下で漕ぐことができれば、日本では負けない」。視界にはすでに24年のパリ五輪がある。
 三重国体が中止となった9月、自主トレで佐藤選手の原点ともいえる神埼市の日の尺池で中高生と一緒に漕いだ。自分自身、最初から速い選手ではなかった。練習の積み重ねこそが結果を生むと知っているからこそ、伝えられることがある。佐賀国スポの少年と成年の部で、”神埼勢”がカヌーのトップに並び立つ日が来ると信じている。

佐藤 光 選手

競技:カヌー

さとう ひかる

1996年生まれ。神埼市出身。神埼高校入学後、カヌーを始める。3年時に全国高校総体のカヌーカナディアンシングルで3位に入る。大正大に進学し2017年に日本代表に選出され、カナディアンペアでワールドカップや世界選手権に出場。21年5月にあった東京五輪のオリンピック代表選手選考会でカナディアンシングル1000メートル5位。24年の佐賀国スポ優勝と、パリ五輪出場を目指す。自衛隊体育学校所属。