MATSUO Kanna

世界を夢見る期待の“超”新星

ゾーンに入る

 試合のプラットフォームに立ち、バーベルと向かい合った瞬間から競技を終えるまで、「重たかったな」という程度しか記憶がないという。会場内の物音は耳には届かない。集中力が高まっているからだろうか、考えが浮かぶこともない。いわゆる、ゾーンに入った感覚、といえばいいのだろうか。
 もともと「感情の起伏はあまりない」と自己分析する。15歳という年齢よりはずっと大人びた雰囲気がある。普段の練習でも、生活面でも感情を表に出すことはあまりない。あくまでも「たんたんと」である。それは記録の面でも現れている。練習と試合の記録に、ほとんど差がないのだ。驚くほどの集中力とメンタルの強さだが、「その強さの理由は」との問いにも、「よし、と思ったらバーベルだけに集中できる」と、こともなげに語る。

スカウト事業で誕生

 5歳のころから地元のレスリングクラブに通った。きっかけは、練習を見学した保護者が「体が強くなれば」と勧めてくれたからだ。だが、続けるうちに結果が出始める。小学校低学年のころから全国大会で表彰台に上がるなど大活躍。だが、高校以降も続けるか悩んでいたときに、佐賀県が実施するジュニアアスリートスカウト事業に参加した。その結果、ウエイトリフティングに向いているとの判断が出た。レスリングの経験があっただけに、力を必要とする競技に違和感はなかった。
 始めてみれば、佐賀県ウエイトリフティング協会の小川稔理事長も「目を見張った」と言うほどの目覚ましいめざましい成長を遂げる。本格的に取り組んでから約9カ月後の2021年12月、全国中学生女子ウエイトリフティング大会の女子45キロ級で準優勝する。スナッチ51キロ、クリーン&ジャーク68キロのトータル119キロだった。優勝記録との差はわずか1キロ。3位とは10キロ差の堂々たる成績だった。

全国総体で3位に

 練習は、SAGAサンライズパークにあるウエイトリフティング室。鹿島市内から電車通学のため練習時間は限られる。それでも、持ち前の集中力で厳しい練習をこなし、地力をつけた。初挑戦となったインターハイ、全国高校総合体育大会「四国総体2022」では、並み居る2、3年生を相手に3位に輝いた。腰に不安を抱え、入賞を目標に臨んだ大会だったが、ここ一番で本来の力を発揮した。
 競技歴はまだ2年ほど。伸びしろ十分だが、これからはますますレベルの高い戦いが待っている。まだ経験がない国際大会について話を振ると、「YouTubeなどで見ます。ライトが当たる雰囲気が、普通の大会とは違いますね」と笑顔を見せた。世界のどこかにあるプラットフォームの真ん中で、バーベルを頭上に掲げる姿を見る日がきっと来る。静かな情熱をたたえたまなざしの先に、無限のフィールドが広がっている。

松尾 環那 選手

競技:ウエイトリフティング

まつお かんな

2006年7月22日生まれ。鹿島市。5歳から地元のレスリングクラブに通い、全国大会で表彰台に上がるなど活躍。中学2年の終わりごろからウエイトリフティングを始める。2021年12月の全国中学生女子ウエイトリフティング大会45キロ級で準優勝。高校進学後、2022年8月の全国高校総合体育大会「四国総体2022」では女子45キロ級で1年生ながら3位に入った。ベストはスナッチ55キロ、クリーン&ジャーク70キロのトータル125キロ。佐賀清和高。