IURA Itsuki

直径4.5ミリを射貫く

真っすぐ見据える

 微動だにせず真っすぐな目で見据えるのは、10メートル先にある直径わずか4.5ミリの的。ライフル射撃で国内トップクラスの実力を持つ井浦一希選手は、小さな的の中心を狙って静かに引き金を引く。佐賀県期待のシューターがその先に狙うのは、2024年のパリ五輪出場と、佐賀国スポでの優勝だ。
 ライフル射撃とは、制限時間内に決められた姿勢で決められた弾数を撃ち、得点を競う競技。種目はビームライフルやエアライフル、ピストルなどがあり、姿勢も立射、膝射、伏射の3姿勢がある。井浦選手は五輪や国体の種目になっている10メートルエアライフル射撃(立射)と、50メートルライフル射撃(3姿勢)の練習に励んでいる。
 父と3歳上の姉がピストル、8歳上の姉がライフル射撃をしていた影響で、中学2年の冬から競技を始めた。3年の時に出場した全日本中学生選手権でいきなり2位に輝くと、世界で活躍するアスリートを多く輩出しているJOCエリートアカデミー(東京都)から声が掛かった。「上を目指して頑張りたい」と、都内の高校に進学するのと同時にアカデミーに入校し、寮生活を送りながらライフル射撃の腕を磨いた。

努力が結果に

 「練習を重ねれば結果がついてくるところにやりがいを感じる」と井浦選手は声を弾ませる。上を目指す選手であれば、的の中心を撃ち抜き続けなければならない。射撃やランニングといった日々の練習の成果が表れ、10点を連続して出すことができると、「すごくうれしいし、10点を射貫くのが気持ちいい」。努力が結果につながるのを実感し、ますます競技にのめり込んだ。
 佐賀県にゆかりはなかったが、県が推進する「SSPアスリートジョブサポ」事業で、鳥栖市の医療法人社団如水会「今村病院」に就職することになり、拠点を移した。平日は昼過ぎから病院の通所リハビリセンターで介護士の助手として働き、夕方からは佐賀市のSAGAサンライズパーク射撃場で練習に打ち込む。県内に50メートル種目の練習場がないため、土日は県外まで足を運んで練習に取り組んでいる。
 アカデミーの充実した環境から一転し、食事から練習メニューまで自分で管理しなければならなくなったが、「自立して気持ち的にも成長できた。それが成績にも結びついている」と実感する。実際に、佐賀に来て半年ほどで臨んだ昨年の茨城国体では、10メートルエアライフルで成年女子4位という好成績を収めた。

「ライバルは自分」

 しかし、技術的にも精神的にも成長している半面、まだ課題もある。10メートルエアライフルでは、的の中心を撃って得られる10点にも、10.0点から10.9点まで幅があり、井浦選手は「まだ10点が浅い」と話す。0.1点で順位が変わるシビアな競技。「センターを深く撃って10.9に近い点を出さないと成績は伸びない」と精度の向上に努める。
 「ライバルは自分」。そう言いきる井浦選手は、4年のパリ五輪と佐賀国スポ、二つの大舞台に強い思いを抱く。「今の大きな目標はパリ五輪だが、もう一つの目標は佐賀国スポでの優勝。今村病院や応援してくださる佐賀の方に恩返しをしたい」

井浦 一希 選手

競技:ライフル射撃

いうら いつき

2000年、福岡県太宰府市出身。中学2年の冬に競技を始め、高校時代はJOCエリートアカデミー(東京都)で腕を磨く。2018年の福井国体では少年女子10㍍エアライフル立射(40発)6位、19年の茨城国体では成年女子同(60発)4位。医療法人社団如水会「今村病院」(鳥栖市)で働きながら、2024年のパリ五輪出場、佐賀国スポ優勝を目指す。