KUNIMOTO Yui

トップを目指し、結果で恩返しを

9年目にたどり着いた日本一

 日本一の景色は、素晴らしい―トップでゴールラインを通過すると、自然とガッツポーズが出た。2022年5月、第100回全日本選手権の女子軽量級ダブルスカル、2位に5秒差をつけて初めての日本一に輝いた。ボートを始めて9年目の悲願だった。
 ボートとの出会いは高校入学後。小学2年から中学3年まではバレーボールに熱中した。目標は「全国の舞台に立ちたい」。だが、その目標にはあと一歩、手が届かなかった。高校ではどのようにして全国に挑戦するのか。何気なく手に取った唐津商高のパンフレットに、ロンドン五輪に出場した福本温子選手の世界で戦う姿があった。自分もそうなりたい、との思いを胸にボート部の門をたたいた。

全国を目指して始めたボート

 ボートを始めるとできることがどんどんと増えていき、日々の成長を感じた。高校2年時に出場した和歌山国体少年女子ダブルスカルで、一つ上でU-19日本代表にも選ばれた横田栞とコンビを組み、準優勝した。全国の舞台に立ち活躍をするという目標をかなえたが、次は「日本代表になる」ことを目指した。そのきっかけは、横田が練習中に日の丸がついたウェアを着ていたから。自分も日の丸を背負いたいと、さらなる高みを見据えた。
 その後は代表選考会など順調に成果を上げ、自信もつけて迎えた春の全国選抜。シングルスカルで優勝を目指したが、オールが折れて転覆、予選で敗退した。「天狗になっていた鼻をポキッと折られた感じだった」。さらに、その後に参加したイタリアでの合宿で、現地の一般の選手にも全く歯が立たなかった。「自分はまだまだ。練習しかない」。がむしゃらにこぎ続け、ついにU-19日本代表として世界ジュニア選手権(オランダ)に出場した。また一つ、夢をかなえた瞬間だった。

必要だった、苦しい5年間

 高校卒業後は中部電力に入社しボート部に所属、シニア選手としてのスタートを切った。当然だが、ジュニアとシニアではレベルが違う。試合では簡単に勝てなくなった。さらに、18歳で仕事を始め、実家を離れたことで身の回りのことをすべて一人ですることとなった。心細さを支えてくれたのは、職場の仲間からの「頑張ってね」「応援してるよ」とのエールだった。「支えてもらっている」と感謝の気持ちが高まるほどに、「結果で恩返ししたい」との思いが募った。だが、勝てない。それでもボートをこぎ続け、必死で仕事も覚えた。
 練習は朝、始業前に行う。午前4時に起き、5時過ぎにはボートに乗る。その後、職場へ。一般の社員と全く同じ業務をこなし、終業後、ボートに乗ったりウェイトトレーニングなどをしたりする。残業で練習できない日もある。苛酷にも見える日常だが、そこには「仕事も競技も両立させる」という同部の基本方針がある。アスリートとしての時間は限られている。引退後の人生を見据えたとき、安心して次のステージに進んでほしいと考えているからだ。高卒後、複数の企業に誘われたが、入社の決め手となったのも、この「両立」だった。プロではない社会人アスリートとして、生活も独り立ちすることを目指した。
 アスリートとしても社会人としてももがき続けた6年目、ついに努力の結果が出た。全日本でトップに立ち、「ようやく恩返しができた」と喜びをかみしめながらも、感謝の気持ちを結果で示せたことが何より嬉しかった。追いかけられる立場となった2023年の全日本選手権でも勝ち、連覇した。勝てなかった5年間の努力の積み重ねが、どんなハードルも越えられると自信を与えてくれている。「いま振り返れば、必要な勝てない5年間だったかな」と笑う。人知れず悩み、苦しんだ日々さえ、屈託のない笑顔で乗り切ってきた。そんな芯の強さと、勝利への強い渇望を感じさせてくれる。

2024年はハッピーな年に

 ボート歴11年目となる2024年、年明けから新たな進化を遂げた。オールで水を「つかむ」という考え方から「抱え込む」ととらえ方を変えたことで、以前よりも格段に、スムーズにボートを進められるようになった。「今までで、一番ボートが楽しく感じる」と大きな手ごたえを感じている。
 自室には、あの高校選抜で折れたオールが飾ってある。決して天狗になるな、との自分への戒めだ。2024年は全日本三連覇、佐賀国スポ優勝が目標だ。自信を持ちつつも、どこまでも謙虚に。勝利への原動力は、支えてくれる方々への恩返しの気持ちだ。持ち前のスタミナを生かした新しいオールさばきが、応援と感謝の美しい連鎖をもたらしてくれることだろう。

國元 悠衣 選手

競技:ローイング (ボート)

くにもと ゆい

1998年生まれ。唐津市出身。唐津商高でローイングを始める。高校2年時の2015年和歌山国体、同3年時の16年岩手国体で少年女子ダブルスカル2位。18年の福井国体では成年女子でも同競技で2位入賞。22年の全日本選手権女子軽量級ダブルスカルで初の日本一に。23年も連覇した。鏡中-唐津商高。中部電力所属。