MAKISE Tsubasa

頂点目指しペダル踏む

世界で積んだ経験

 力強くペダルを踏んで、颯爽と坂道を上っていく―。ロードバイク選手の牧瀬翼選手は、自転車の国・オランダなど世界で経験を重ねてきた。現在の目標は全日本選手権優勝。頂点に辿り着くため、ペダルを漕ぎ続ける。
 牧瀬選手は伊万里市出身。小学3年から始めた陸上では中長距離を走り、駅伝にも打ち込んだ。筑紫女学園高(福岡県)を卒業後、北海道の実業団チームに入団。3年間を陸上選手として過ごした。
 陸上選手を引退し、21歳で伊万里市に帰郷。実家の倉庫で父親のロードバイクを見つけたのをきっかけに、趣味で自転車に乗り始めた。その後、参加したイベントで当時の全日本代表監督から合宿に誘われ、競技歴わずか3カ月で代表合宿に参加した。
 合宿があった2007年6月、全日本選手権に初出場し、6位入賞という結果を残した。しかし、「当時は大会の大きさも知らなかったので、なにがすごいのか分からなかった」と笑って振り返る。それでも、アルバイトをしながらクラブチームに所属し、レース活動を続けていった。

時速40キロの衝撃

 競技の魅力について、「風を切る気持ちよさ」と声を弾ませる。「衝撃的だった。陸上なら最高でも時速20キロしか出ないが、自転車なら40キロ以上で走れる」。自分の足ではなく、自転車で走る楽しさを知った。
 25歳からは別の仕事に興味を持ち、しばらく競技から離れた。しかし、日本初の女子実業団チーム(大阪府)ができたことを契機に、28歳で再び選手として復帰。迷いもあったというが、「やれる道があるなら、もう一回チャレンジしてみよう」。3年ぶりに競技の世界に舞い戻った。
 17年にはずっと憧れていた海外に進出し、オランダのチームに所属。日本とは大会の規模が大きく異なり、集団での位置の取り方など全てを勉強し直した。練習内容も一新したが、なかなか上位へは食い込めない。それでも、「みんながみんな強くて、必死になれて楽しかった」。
 オランダでは自転車の町として有名なマーストリヒトに住んだ。この町での生活で牧瀬選手は「(本当の意味で)初めて自転車に魅了された」と話す。町の人の多くが自転車に乗り、自転車のオブジェも置いてある。自転車が溢れる環境で、競技に対する気持ちが興味から好きへと変わっていった。

「1位しか意味がない」

 日本には19年に帰国して強化選手にも指定され、20年にはベルギーやベトナムのチームで活動して場数も踏んだ牧瀬。全日本選手権での優勝を目標に掲げ、練習を重ねる。国内で最もレベルの高い全日本選手権での過去の最高成績は18年の3位。だが、「2、3位でも完走した人と一緒。1位しか意味がない」と満足はしていない。
 新型コロナウイルスの感染が拡大している21年は、故郷の伊万里市で英気を養う。「日本全国各地に行ったが、佐賀は練習しやすくて一番いい」。レース活動に影響はあるものの、前向きに地元での練習を楽しむ。
 日本最高峰の山岳大会でコースレコードを記録して2連覇するなど実績を積み上げてきた。ラストでの勝負は苦手だと言うが、心肺機能と、上り坂にも平坦な道にも対応できるという武器は強み。「ゴールまでに勝負をつけるレース展開にすれば勝てるはず」と勝利への方程式を思い描く。自転車を楽しむ心は忘れず、目標を追い続ける。

牧瀬 翼 選手

競技:自転車ロード

まきせ つばさ

1985年、伊万里市出身。21歳から自転車を始め、いきなり全日本選手権で6位になる。オランダで実力を伸ばし、2018年の全日本選手権では3位に入った。身長164センチ。35歳。