SASAKI Suguru

佐賀をカヌー先進地に

県内カヌー界の励み

 昨年10月下旬、岩手県の奥州いさわカヌー競技場で開かれた日本カヌースラローム選手権大会。NHK杯も兼ねた大会で、一人の選手に「佐賀」というテロップがテレビ中継に映し出された。
 この大会の男子カナディアンシングルで、佐々木優選手は県勢では快挙となる3位の好成績を上げ、表彰台に立った。「2024年に佐賀で開かれる国民スポーツ大会に向け、県内カヌー界の励みになる第一歩」と声を弾ませる。
 佐々木選手が、佐賀を訪れたのは夏真っ盛りの2020年8月。SAGAスポーツメンターとして同協会に所属し、佐賀県代表選手として国内外のメジャーな大会に出場するほか、県内のカヌー競技者への強化指導という重責も担う。
 「佐賀では、専用の練習場がないのは痛い。カヌーの練習に適した河川はあるだけに、ゲートの常設だけでも、相当のレベルアップができる」と指摘しつつ、「自分の競技姿勢を見せて人材を掘り起こし、地道にレベルアップを図る。今から取り組めば、佐賀はカヌー先進地になるはず」。新天地での取り組みに前向きだ。
 小学生2年のとき、父親に勧められ、兄と一緒にカヌーを始めた。古屋敷が軒を連ねる風光明媚な角館町の実家近くの川で、カヌーを専門にしている競技者が練習に励んでいた。

東北で名をとどろかせる

 ノルディックスキー・ジャンプの選手だった父が、雪深い秋田の内陸部でカヌーを勧めた理由は今でも分からないが、生来からの身体能力の高さで、小学生の時から東北の大会では上位常連者として名を轟かせた。
 2016年、集大成の一つとして、兄と一緒にリオ五輪代表最終選考を兼ねたアジア選手権の男子カナディアンペアに出場する。決勝まで進みながら、5位と夢の舞台には手が届かなかった。「オリンピックに出られなかったのは残念だったが、実力は出し切った」と悔やむ様子は見せない。
 国内トップ選手とはいえ、カヌー競技に理解を示し経済的に支援してくれる企業は日本では圧倒的に少ない。スポーツ推薦で進学した地元大学を中退したあと、飲食業を営む実家を手伝いながら競技を続けざるを得なかった。

ペダルさばきに磨きを

 国体で知り合いになった競技仲間に各都道府県の「アスリート就職」の情報交換も欠かさなかった。そんな中、2019年茨城国体で、スラロームの佐賀県代表として出場していた坂口裕之選手から「佐賀は国スポを開くにあたり、有望な選手を集めている」と聞かされた。
 これまでの国体成績が評価され、県スポーツ協会の所属が決まり、SSPライジングアスリートにも指定された。現在、佐賀市内を流れる多布施川を練習拠点に、国内を中心とした各大会の上位入賞をうかがう。当面、SSPトップアスリートの指定を目標としているが、「とにかく、自分の競技レベルアップとともに、佐賀をカヌーの先進地にしたい」。二つの強い思いが激流での巧みなペダルさばきに磨きをかける。

佐々木 優 選手

競技:カヌー(スラローム)

ささき すぐる

1986年、秋田県仙北市角館町出身。佐賀市在住。小学2年からカヌー競技をはじめる。地元の高校を卒業後、秋田経済法科大学(現・ノースアジア大学)に進学。大学中退後、秋田県体育協会テクニカルアドバイザーなどを務め、国内外の大会で活躍。現在、佐賀県スポーツ協会SAGAスポーツメンター。